天井桟敷日記

「天井桟敷からの風景」姉妹版

和子の告白 最終回

龍彦の日記

大腸癌/ステージ4の告知を受けたときは目の前真っ暗。なんで俺が死ななあかんねん、せっかく初恋の女と幸せな二人暮らしを始めたばっかりやのに、神も仏もあるものか、もとから信じてもいないけど。

でも恨んだり呪ったりしても始まらへん。やるべきことをやらなくちゃと婚姻届を出して遺言信託、これで形はでけた、あとは和子と楽しく暮らしを全うせなあかん、最後の日まで。

それでも納得いかんなぁ。納得して死ぬ理由を見つけたい、昔から書き続けていたブログやツィッターを読み返したらこんなの見つけた。


運命に振り回されない、運命とは必然性のことや、自由意志や偶然があると思うから文句を言いたくなる、こうして癌で死ぬのは必然やったんや、運命=神は俺らをみな公平に扱うてくれとる、俺だけが特別に扱われとるんとちゃうんや、不幸に思うのは自分の所為、必然に気づけなかったお前がわるい。

龍彦の日記を何度も読み返しながらウチはあいつの笑顔を思い出した。二人暮らしは二年足らずで終わってもた。あれから三年、もうすぐ喜寿認知症は徐々に進んでるけど身の回りの始末はなんとかでけとる。
ウチが先に死んでたら、あの口先だけの不精者はさぞかし困ったやろ。そやからこれでええねん。全ては必然。今から思うと出会った人はみな菩薩や。嫌な上司も暴君俊男も姑もスケベな客ももちろん龍彦も菩薩さま。運命=必然に気づかせてくれる観音菩薩や。さあ、晩ご飯、用意しよか。

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