天井桟敷日記

「天井桟敷からの風景」姉妹版

和子の告白 その3

にもかかわらず笑え

明日ほんまに婚姻届を出しに行くの、ええん?
ええんや、俺がこうなったからこそ行く。半年のお試し期間はまだ過ぎてないけどもうお試しは終わりや。ちゃんと形にしときたいんよ。お前もそれでええやろ?

同棲を始めて三ヶ月。龍彦と一緒に健康診断を受けたら龍彦の便から血液反応、すぐに内視鏡検査、大腸癌やった。ウチの認知症防衛のための二人暮らしやったのにまさかこんなことが。

婚姻届を出して数日後に龍彦は入院。癌は内視鏡で摘除したけど転移してるようや。治療の苦痛の中で龍彦はエネルギッシユやった。電話で信託銀行と連絡を重ね、公証人役場へ行くときは病院の外出許可をもらって遺言信託完了。

妹には前の嫁さんの不動産が最終的には行くようにしよ。俺かお前のどちらかが死んだら遺産は残った方が丸取り、二人とも死んだら金融資産は全部寄付、不動産を妹またはその法定相続人へ。これで安心してお互い死ねるな。信託実行手数料を銀行にがっぽり取られるのが癪のタネやけどな。

ウチの親兄弟はみんな死んでもたからウチには残す先がない。認知症が進んでいたら相続手続きもしんどいやろからウチも遺言信託に納得、そんなことよりきちんと考えて苦痛の中、エネルギッシュな龍彦が驚異やった。この人を連れ合いにでけて幸せやった。嬉しかったのはその尽きないユーモア、彼は一日に三回はウチを笑わせてくれた。