天井桟敷日記

「天井桟敷からの風景」姉妹版

和子の告白 その2

和子の告白 その2
高校を卒業してウチは銀行に就職した。短大や大学など進学の道もあったんやけど、勉強はあんまり好きやなかったし、町の自転車屋を営んで懸命に働いているお父ちゃんの背中を見ていたので根っからの他人嫌い、チャラチャラした女子大生にはなりたくなかった。

青春の輝き、そして暗転

よかったなあ、和子。ええとこに就職でけた。あとは次の幸せや。

 

お父ちゃんは涙を滲ませて喜んでくれた。ええ職場で素敵な伴侶を見つける、それがウチの計算でもあった。オンナの幸せは結婚と安定した暮らし。ウチは懸命に働きながらアンテナを磨くのも忘れなかった。

 

俊男さん、あれは有望株やで。いずれ支店長は間違いなし役員まで行くかもよ。

 

女子行員たちの話題はもっぱら品定め。上司の叱責に耐えつつ黙々と成績を積んでいる俊男はカッコよかった。ウチより五つ歳上、いつしかこっそりデートをするようになって昼は仕事、夜と休日は俊男。ウチの青春やった。

25でめでたく成長株を掴まえて人も羨む寿退行。ところが結婚生活は予想外。俊男がマザコン、姑との同居はまだ耐えられたけど、問題は俊男本人の暴君ぶり。なにかというとウチを責める。夕食のおかずが気に入らないとか掃除が行き届いてないとか難癖をつける。欠点探しがあの銀行の行風やったんやなあ、そのストレスを嫁に発散して来る。ワイはきちんと仕事しとる、そやのになんやお前は、専業主婦の穀潰しやないか。

最後は子どもができないことまでウチの所為にされた。病院に行こというても聞く耳持たなかった。姑も口を出してきてでけへんのは畑がわるい、三年して子なきは去れとなってもた。

 

出戻りが実家に戻るのは世間体がわるい、お父ちゃんは帰って来いと言うてくれたけどウチはアパートで一人暮らしを始めた。都銀七年勤務のキャリアも生かせたなあ、人脈をたどっての生保セールス。いやらしい客もおったけど上手にかわす術も覚えた。
土日関係なく働いて、楽しみは音楽と読書とたまの旅行。人生は世間と魂の二元軸。暗転した結婚生活三年はあったけど七十二までウチは青春やった。時々さみしくなったら龍彦を思い出したりしたけど。

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